月最古の玄武岩の結晶作用の実験的研究

Experimental studies of the crystallization of the oldest lunar basalts

荒井 朋子

Tomoko Arai

東京大学大学院理学系研究科博士課程, 東京都文京区本郷7−3−1

受け入れ教官:久城 育夫


 南極隕石として発見された月の海の玄武岩Asuka881757は結晶化年代が40億年であり,最古の結晶質の玄武岩である.ただし,角レキ岩中に含まれる玄武岩片にはさらに古いものもある.従って,この玄武岩は月の海の初期の火成活動を解明する重要な鍵を握る貴重なサンプルである.この玄武岩はFe,Tiに富む特徴的な組成を持つスピネルを含んでおり,そのスピネルの組成を手がかりに,実験的手法によりこの最古の玄武岩の岩石成因,さらには初期の海の火成活動の条件に制約を与えることが本研究の目的である.

 スピネルの組成は晶出温度,酸化還元状態,及び液の組成に非常に敏感に左右されるため,それを含む玄武岩の生成環境を推測する上で非常に有用である.そこで,久城育夫教授の指導の下,温度と酸素雰囲気をコントロールした常圧実験を固体地球センターのシリコニット炉を用いて行った.実験は固体地球センターと東京大学鉱物学教室の炉を使用し,実験方法及び結果の議論は全て久城育夫教授と固体地球センターで行った.出発物質として,Asuka玄武岩の組成を持つガラスを用い,温度は1200℃-1050℃,酸素雰囲気はf02=10-9 - 10-15で,相関係を調べるために定温実験,さらに冷却過程に伴う組成変化を追うために冷却速度を付けた二種類の実験を行った.

 月の玄武岩にはウルボスピネル(Fe2Ti04)とクロマイト(FeCr204)の二種のスピネルを端成分にした固溶体が一般的に含まれている.実験の結果,この二種のスピネルの組成の間にはギャップがあること,さらにこの組成のギャップは純粋なスピネルの系で起こるのでなく,輝石を含んだ系で輝石とクロマイトが反応することにより生じることが明らかになった.また,クロマイト及びウルボスピネルの晶出する温度,酸素雰囲気も決定することに成功した.以下,本実験で得られた結論である.

 (1)Asuka玄武岩中のスピネルは約1050℃で,酸素分圧<10-10の条件下で晶出したと思われる.クロマイトは液との反応により消失したか,物理的な過程,例えば,分別結晶作用により取り去られたと考えられる.

 (2)クロマイトとウルボスピネルの間には輝石を含んだ系では組成のギャップが存在する.


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Institute for Study of the Earth's Interior