大規模珪長質マグマの起源物質に関する研究

Investigation of the source materials of large-scale felsic magma

井上 享郁

Takafumi Inoue

熊本大学理学部地球科学教室・修士1年

横瀬 久芳

Hisayoshi Yokose

熊本大学理学部地球科学教室・助手

受け入れ教官:加々美 寛雄


【研究目的】
 大規模なカルデラを伴う第四紀の珪長質火山活動は,北海道と九州に集中している.姶良カルデラもその一つであり,入戸火砕流の噴火によって大規模なカルデラ(金コウ湾)を形成したとされている.入戸火砕流に関する岩石学的・地球化学的研究は,津久井・荒牧(1990)によってなされている.津久井・荒牧(1990)は,入戸火砕流および大隅火砕流の噴出物は,均質な組成を持ったマグマが地下に蓄えられたと考えている.組成が均質であるため,マグマ発生に至る過程は解析されないままである.

 Nagaoka(1988)は,詳細な地質調査に基づいて,姶良カルデラ形成に関連した噴火活動を4ステージ(plinian stage,1arge scale pyroclastic flow stage,moderate scale pyroclastic stage,post cardera stage)に分轄した.つまり,一回の均質なマグマの噴出ではなく,複数回にわたる不均質なマグマの噴火によって,姶良カルデラが形成されたことを述べた.事実,plinian stage初期の噴出物とされている福山降下軽石や岩戸火砕流堆積物は,入戸火砕流堆積物とは異なったマグマに由来すると考えられる軽石やスコリアが放出されている.Nagaoka(1988)のように,カルデラが複数の噴火によって形成されたのであるならば,不均質な噴出物の時系列変化が発生過程や起源物質に関して多くの情報を与えてくれることが期待される.層序に基づいた試料採集とそれらの化学分析によって,大規模珪長質マグマの起源物質およびその発生機構を解明する.

【研究方法】
 現在までに我々は,姶良カルデラ形成初期の噴出物である福山降下軽石堆積物の軽石と岩戸火砕流堆積物の軽石とスコリアについて,主成分・徴量成分元素・希土類元素の測定を行っている.その結果,以下の事柄が明らかとなった.
(1)K20+Na20 - SiO2図上でKuno(1968)によるソレアイトの領域に示される.
(2)K-Rb図で各噴出物が同一のトレンドを形成する.
(3)HFSEやREEは,岩戸火砕流のスコリアは共存する軽石より高濃度側に示される.
(4)ACF図で各噴出物がI-typeの領域に示される.

 これらの観察事実は,大規模珪長質マグマが塩基性の起源物質に由来していることをほのめかす.さらなる解析を容易にする目的で,Nagaoka(1988)の層序に基づいた試料(本質岩片〉採集を行い,同位体比の測定を試みた.測定した試料は以下に挙げた12試料である.

 1. プリニアンステージ(降下軽石堆積物および火砕流堆積物)6試料
 2. 大規模火砕流ステージ(降下軽石堆積物および火砕流堆積物)4試料
 3. 中規模火砕流ステージ(火砕流堆積物)2試料
【研究結果の中間報告】
 今回の測定で明らかとなった事柄を以下に示す.
 Sr同位体比は,大塚降下火砕流以降の噴出物のSr同位体比は,均質(約0.7059)であった.この値は,倉沢(1985)によって報告されたAT−Tn火山灰とも調和的な結果である.また,これらの値は,姶良カルデラ周辺に分布する基盤岩類(花崗岩・四万十層群の堆積岩類)の同位体比に比べてかなり低い値を示し,主成分および微量成分から導き出された結論を支持する.プリニアンステージ初期の軽石(岩戸火砕流堆積物軽石,福山降下軽石堆積物軽石)は,低いSr同位体比(約0.7056)を示す.一方,岩戸火砕流堆積物スコリアおよび中規模火砕流ステージ噴出物(燃島火砕流堆積物軽石,高野ベースサージ軽石)のSr同位体比は,他の噴出物に比べて高い値をしめした.また,岩戸火砕流堆積物軽石のOpx,福山降下軽石堆積物軽石のOpx,HbにおけるSr同位体比は約0.7061を示し,ほとんど変化は認められなかった.

 いずれにしても,今回得られたデーターもまた大規模火砕流をもたらした起源物質が,酸性の花コウ岩や堆積岩類でないことを示唆する.


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Institute for Study of the Earth's Interior