硫黄同位体比からみた西九州の火成活動と鉱化作用

Sulfur isotopic studies of the magmatic activity and mineralization in western Kyushu

前田 勝彦

Katsuhiko Maeda

九大・工・応用地質学

受け入れ教官:日下部 実


[研究背景]
 長崎県と佐賀県の県境付近に位置する有田-波佐見地域には,いくつかの浅熱水性の金鉱床と多数の陶石鉱床が存在する.このうち佐賀県の泉山陶石鉱床は,当地域において代表的な陶石鉱床であり,南西約6kmには金約1tを産出した波佐見金鉱床が存在する.これらの鉱床は,流紋岩の活動に伴う熱水活動により生成したと考えられるが,泉山鉱床や波佐見の陶石鉱床群の成因は流紋岩の自己変質作用との報告もある.しかし本地域に分布する流紋岩の活動時期と熱水活動の時期には,50万年以上の差があることが明らかになっており,その成因については疑問の余地が残っている.昨年,泉山鉱床坑内の陶石,未変質流紋岩,鉱床周辺に分布する堆積岩について酸素・水素同位体比を測定した.しかし,この結果から鉱床を形成した熱水が,流紋岩自身からきたものか(自己変質作用),地熱系を形成する循環熱水なのか明確にすることは困難であった.

[研究目的]
 陶石鉱床を形成した熱水の起源を明らかにするため,酸素・水素同位体比を測定した試料を中心に,陶石,堆積岩,未変質流紋岩の硫黄同位体比を測定する.

[研究方法]
 泉山鉱床坑内より陶石4試料,陶石より分離した黄鉄鉱3試料,鉱床周辺の堆積岩6試料,堆積岩より分離した黄鉄鉱1試料,泉山鉱床より北北西約14kmの腰岳から末変質流紋岩1試料を採取し,硫黄同位体比の測定に用いた.

[結果]
 測定により得られた結果は,以下の通りである.

	Rock 				Range of d34S (‰) 
	-------------------------------------------------
	Altered sedimentary rock 	-20.4〜+15.3
	Non-altered sedimentary rock 	+6.7〜+10.5 
	Altered rhyolite 		-5.1〜+1.1 
	Fresh rhyolite 			+5.6 
	Pyrite from Hasami gold deposit +0.1 

※分離した黄鉄鉱の硫黄同位体比の値は,全岩試料の値と合わせて表示した.

[考察]
 本地域に分布する流紋岩は磁鉄鉱系列に属し,硫黄同位体比も磁鉄鉱系列に属することを指示する.泉山鉱床の陶石や波佐見金鉱床に産する硫化物の硫黄同位体比は,未変質な流紋岩の値よりも4‰低い値を示す.このことは,Sasaki and Ishihara(1980)のいうように流紋岩と硫化物中の硫黄には密接な関係があると考えられる.つまり地下深部で流紋岩質マグマが熱水系の熱源となり,陶石鉱床や金鉱床が形成したためと推測される.

 波佐見金鉱床に産する硫化物の硫黄同位体比は,泉山鉱床の陶石が示す硫黄同位体比の範囲に入る.従って,泉山鉱床を形成した熱水は,波佐見金鉱床を形成した熱水と同様な過程により生成した可能性がある.

 泉山鉱床を形成する流紋岩体と堆積岩の境界付近では,鉱物の量比から熱水変質を受けたと考えられる堆積岩が認められる.しかし,今回明らかとなった堆積岩の硫黄同位体比は,変質・末変質ともに-20.4〜+15.3‰の範囲に分布し,変質の程度との間に相関は見られなかった.従って,堆積岩中の硫黄は熱水活動により付加されたものではなく,熱水活動以前から堆積岩に含まれていたものと考えられる.このことから,変質を受けたと考えられる堆積岩は,地下深部で放出される熱によりその構成鉱物を変化させたと推定される.


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Institute for Study of the Earth's Interior