硫黄同位体比を利用した酸性降下物の発生源の解明(第11報)

Sulfur isotopic view on the sources of acid fallout (the 11th report)

丸山 隆雄,南 直樹

Takao Maruyama and Naoki Minami

新潟衛生公害研究所

受け入れ教官:日下部 実


1.はじめに
 日本海側の各地で冬期に海水以外に由来する硫酸イオンの降下量が増加することが報告1)されており,大陸での人為活動に由来する硫黄酸化物が日本海を越えて日本国内に影響を与えている可能性が示唆されている.大気中へ放出される硫黄はその発生源により含まれる同位体(32Sと34S)の比率が異なる.このことを利用して,日本海側の降水中硫黄の発生源と考えられる東アジア地域の石炭・石油および新潟県内の大気降下物中の硫黄同位体比(以下d34Sという)を比較しその発生源について検討を行った.今回は,中国産石油及び非降雪期・降雪期の大気降下物を中心に測定するとともに,南アジア及び中東地域の石油・石炭についても測定を行い,データの蓄積を図った.

2.方法
 石油・石炭は,既報2)と同様の方法で燃焼させ,発生した硫黄酸化物を分離,精製して調製した試料についてd34Sを測定した.大気降下物は,新潟県内の4地点(新潟市,長岡市,六日町及び相川町)において,1995年7月(非降雪期)及び1996年1月から2月(降雪期)の間に,湿性/乾性分別採取装置で採取した降水試料についてd34Sを測定した.また,ローカルな人為活動の影響が少ない地域の硫黄同位体比を求めるために,既報2)と同様,妙高山中腹において1995年7月から10月(非降雪期)及び1995年12月から1996年2月(降雪期)に大気降下物を採取し,d34Sを測定した.

3.結果と考察
3.1 石油・石炭中の硫黄同位体比
 石油・石炭の燃焼ガス中硫黄のd34S測定結果を表1に示す.
 中国産石油(No.1〜5)のd34S値は,平均19.8‰と,南アジア・アセアニア産原油(No.7〜11,平均5.5‰(n=5)),中東原油(No.12〜19,平均-2.7‰(n=8)),県内の精油所で製造された重油(No.20〜26,平均0.5‰(n=7)及び県内工場で使用されている重油(No.30)に比べ,明らかに高い値を示した.また,新潟県産の原油(No.28)のd34Sは10.8‰と正の値を示すが,単独で使用されることはなく,中東等からの原油(No.27)と混合された後,実際に使用される原油(No.29)では,d34Sは-6.0‰と負の値を示した.中国産石油のd34Sは,これまで測定された中国炭のd34S(平均8.3‰ 範囲:-27.3〜28.9‰(n=27)と比較しても高い部類に入る.また,主として重油を燃料とする県内主要工場排ガス中硫黄のd34S(平均-2.7‰範囲:-8.2〜7.2‰(n=17))3)よりも明らかに高い.石炭では,今回の中国炭(No.31)のd34S値は,既報2)の中国炭と比較すると,やや低い値を示し,インドネシア炭(No.32)が高めの値を示した.

3.2 新潟県内の大気降下物の硫黄同位体比
 県内の大気降下物中硫黄のd34S測定結果を表2に示す.県内4地点とも,降雪期は,非降雪期に比べd34Sが明らかに上昇しており,既報2)の長岡市及び新潟市における結果と同様の傾向を示した.
 また,地点別では,相川町が両期間とも最も高い値を示した.
 妙高地域における調査は,湿性/乾性を区別しない採取法のため他の4地点とは単純に比較できないが,既報2)と同様,ローカルな人為活動の影響が少ない地域においても降雪期にd34S値が上昇する傾向が見られた.こうした降雪期におけるd34S値の上昇は,県内の工場由来の硫黄のみでは説明できず,既報2)の中国炭・ロシア炭に加えて,d34Sの大きな中国産石油の燃焼による影響も示唆するものと考えられる.

4.まとめ
 新潟県内5地点で採取された大気降下物のd34Sを測定するとともに,東アジアを含めた外国産の石油・石炭及び県内で使用されている石油のd34Sを測定した.
 その結果,中国産石油は,他の外国産石油及び県内産石油よりも明らかに高いd34S値を示し,県内における降雪期の大気降下物中のd34Sの上昇には,中国・ロシア炭に加え,中国産石油の燃焼による影響も示唆された.

文献
1)鶴田 治雄:科学,59,1(1989)
2)種岡 裕,丸山 隆雄:岡山大学固体地球研究センター共同利用研究成果報告書
 「硫黄同位体比を利用した酸性降下物の発生源の解明(第10報)」,(1995)
3)大泉 毅,福崎 紀夫,森山 登,漆山 佳雄,日下部 実:日本化学会誌,1991,675



      表2 大気降下物の硫黄同位体比測定結果 非降雪期 降雪期 No. 地点 (期間) d34S(‰) (期間) d34S(‰) 1 新潟 (95.07.10-12) 4.4 (96.01.27-29) 8.2 2 (95.07.16-17) 欠測 (96.01.29-31) 12.2 3 長岡 (95.07.10-13) 3.6 (96.01.26-02.05) 10.1 4 (95.07.16-17) 欠測 (96.02.05-08) 14.0 5 六日町 (95.07.10-13) 3.0 (96.01.25-02.02) 12.0 6 (95.07.16-17) 3.4 (96.02.05-07) 12.5 7 相川 (95.07.10-12) 6.4 (96.01.26-29 欠測 8 (95.07.16-18) 6.1 (96.01.30-02.05) 17.8 9 (95.07.03-18) 9.0 (95.12.04-18) 7.0 10 (95.07.18-08.01) 3.2 (95.12.18-96.01.05) 12.5 11 妙高 (95.08.01-15) 2.8 (96.01.05-19) 4.0 12 (95.08.15-09.01) 3.3 (96.01.19-02.05) 8.7 13 (95.09.01-10.03) 4.3


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