希ガス同位体組成に基づく隕石形成・進化・落下に関する研究

Rare gas isotopic studies of the formation, evolution and fall of meteorites

三浦 弥生

Yayoi Miura

東京大学地震研究所・助手

受け入れ教官:長尾 敬介


 本研究では分化した隕石および始源的隕石(コンドライト)に含まれるコンドルールに着目し,希ガス同位体分析を中心に隕石個々の歴史や隕石母天体進化史の解明を目的とする研究を行ってきています.隕石母天体上で生じた火成活動や熱的イベントの際の脱ガスのため分化した隕石やコンドルール中の希ガス含有量は始源的隕石中の含有量に比べて1〜数桁少なく(それゆえ報告されているデータ数も少なく),貴センターに設置されています高感度・高分解能希ガス用質量分析装置の利用が必要とされました.

 隕石中に含まれる希ガス成分としては,隕石形成時に捕獲された始源的成分のほか,隕石が宇宙空間を飛行している際に宇宙線との相互作用により生成される宇宙線照射起源成分,放射壊変などにより作られる核壊変起源成分,さらには地球落下後に地球大気が隕石表面に吸着したものと考えられる地球大気成分,があげられます.このような起源の異なる成分を利用して主に以下のような研究を進めています.

 (1)分化した隕石中の始源的希ガス成分の存在は過去に数例,スイスのグループ等により,報告されているだけに過ぎません.今回我々は希ガス分析に関する研究例の極めて少ないパラサイトと呼ばれる石鉄隕石について,始源的希ガス成分の存在度や同位体組成を調べる研究を行っています.パラサイト隕石は小惑星のコア・マントル付近を形成していたものと一般に考えられています.直径数mm〜数cmのオリビン片(石質部)が鉄ニッケル合金(鉄質部)に埋まっており,それらを機械的に分離して希ガス分析を行いました.パラサイト隕石の捕獲成分希ガスは希ガス全般が地球大気希ガス組成に似ているものと太陽型ゼノン同位体組成に近いゼノン組成を示すものとが存在していました.前者が地球大気の吸着成分に由来するかどうかはまだはっきりとしないため今後確かめていく必要があります.後者については太陽系形成時のゼノンを取り込んでいる可能性が考えられ,他の希ガスも加味して現在解析を行っています.太陽系形成時のゼノン組成はまだはっきりとはわかっておらず,これまでに出されている理論的な値や始源的隕石の値との比較・検討を進めています.また,コンドルール中の捕獲成分についても,全岩試料から取り出したコンドルール(大きいものでも直径数mm程度)を1個ずつるつぼ内で溶かし分析する方法と板状に切り出した試料についてレーザーをあててガス抽出をして分析する方法の2通りにより調べています.コンドルールの始源的希ガス成分は微量なため今のところ同定に成功しておりませんが,コンドライト全岩の示す値とは量・組成とも異なっていることはわかってきています.

 (2)消滅核種244Puからの核分裂起源ゼノン同位体をもとにしてユークライトと呼ばれる小惑星表層を覆っていたと考えられている岩石の形成年代を調べています.手法の確立を目指すとともに,ユークライト噴石の年代は44億年から45.5億年という範囲に連続的な分布を示すことが明らかになってきています.半径500km程度の比較的小さな天体においても何らかによる熱を1億年以上も保持していた可能性が示唆されます.微惑星衝突や短・長半減期放射性核種の寄与などによる熱源が考えられますとともに,微惑星衝突による天体表層のレゴリス化による熱保持の可能性があります.年代値の古いユークライト隕石からは消滅核種129I起源129Xeが見えているようであり,年代と129Xe量の相関を今後調べて行く予定です.

 (3)日本は多数の南極隕石を保有しています.そのうち特にユークライト隕石について,希ガス同位体やそれらから得られる年代等をもとに同一落下群の同定を行っています.


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Institute for Study of the Earth's Interior