鉱化溶液の酸素・水素同位体組成に関する

Oxygen and hydrogen isotopic studies of ore-forming solutions

澁江 靖弘

Yasuhiro Shibue

兵庫教育大学学校教育学部

受け入れ教官:日下部 実


 熱水性鉱床をもたらした鉱液の酸素同位体比を求めるために,鉱石鉱物の酸素同位体比や鉱床と関連する火成岩の酸素同位体比を求めた.研究の対象にした鉱床は,京都府大谷タングステン鉱床と茨城県高取タングステン鉱床である.大谷鉱床では,白亜紀の花崗閃緑岩中に胚胎する石英脈中で灰重石と錫石が産する.高取鉱床は中生代の泥岩,砂岩,およびチャート中に胚胎し,鉄マンガン重石が石英脈中で産する.酸素同位体比を測定した試料は大谷鉱床の母岩の花崗閃緑岩,鉱脈中の脈石英と白雲母,高取鉱床の鉱脈中の脈石英と白雲母である.試料の酸素同位体比と試料から抽出した酸素のモル数を別表に示す.また,鉱物から抽出した酸素についてはその収率(%)もあわせて表に示した.分析した試料の中には,2回以上酸素を抽出してその同位体比を測定したものもある.この場合,収率が100%に近いもの(岩石の場合は,1mgあたりの酸素の抽出量が多い試料)の酸素同位体比で代表させた.なお,共生している石英と白雲母の試料番号は共通である.今回の測定結果から,以下の点が考えられる.

 (1)大谷花崗閃緑岩の酸素同位体比については,これまでわずかにMorishita(1991)が11.2‰から11.6‰と報告しているにすぎない.今回行った酸素同位体分析の結果は,この報告値に比べていずれも高い値を示している.酸素の抽出量が最も多い試料(OT729−1)でも,3‰以上高い値が得られた.風化作用や熱水変質作用を受けて,岩石の酸素同位体比が変化したことも考えられる.今後さらに大谷花崗閃緑岩の酸素同位体比について検討する予定である.

 (2)大谷鉱床と高取鉱床のいずれでも,白濁している脈石英と透明な脈石英が存在する.前者は,多量の流体包有物を含むために白色を呈していると考えられる.今回分析した,OT4およびTK♯7-4Lの酸素同位体比を比較すると,ほぼ同じ値である.このことは,石英の酸素同位体比が,その中に含まれている流体包有物の酸素同位体比の影響をほとんど受けてないことを示している.また,一般に,大谷鉱床や高取鉱床で透明石英は白色石英に比べて早い時期に晶出したと考えられている.今回の分析結果は,石英の晶出時期の多少の違いがその酸素同位体比に大きな影響を与えていないことを示している.

 (3)共生する石英と白雲母の間での酸素同位体分別は,OT4,OT8,OT12,TK1310でそれぞれ0.47‰,-0.17‰,-2.48‰,0.14‰である.石英と白雲母の間で酸素同位体比に関して非平衡であったものが考えられる.この点についてはさらに検討する必要があろう.


表1 大谷鉱床を胚胎する花崗閃緑岩と鉱床中の脈石英と白雲母,および高取鉱床中の脈石英と白雲母の酸素同位体比.試料名につけたOTとTKはそれぞれ大谷鉱床と高取鉱床におけるサンプルを示す.
	試料名			酸素収率	酸素同位体比
				mmole/mg	d18OSMOW
	------------------------------------------------
	OTとこなげ(大谷花崗閃緑岩)	0.80	19.98
	OT729−1(アプライト)		13.91	14.82
	OT729−2(大谷花崗閃緑岩)	11.80	17.62
	OT4(乳白色石英)		19.38	12.98
	OT4(透明石英)			17.07	16.01
	OT4(白雲母)			11.64	16.48
	OT8(白色石英)			16.88	14.84
	OT8(白雲母)			13.16	14.67
	OT12〈白色石英)		16.05	15.42
	OT12(白雲母)			11.21	17.90
	TK01#7(白色石英)		16.66	14.11
	TK01#7(白雲母)		14.06	11.61
	TK#7-4L(白色石英)		15.95	14.82
	TK#7-4L(透明石英)		16.20	14.68	
	TK1305〈白色石英)		16.12	15.37
	TK1310(白色石英)		17.69	12.70	
	TK1310(白雲母)		12.99	12.86

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Institute for Study of the Earth's Interior