飛騨-字奈月石灰質変成岩のSr同位体比

Sr isotopic ratios of Hida-Unazuki carbonate metamorphic rocks

紫村 一真

Kazuma Shimura

富山大学大学院理学研究科

受け入れ教官:加々美 寛雄


 目的: 飛騨帯から飛騨外縁帯にかけて,アルミナスな変成岩類が報告されている.一部の地域では,これらの変成岩類にともなって石炭紀後期の化石を産出する.これまでの考えでは,化石を含まない変成岩類は飛騨変成岩類,化石を含むものは宇奈月変成岩あるいは飛騨外縁帯の変成岩類とされてきた.これら飛騨周辺地域に分布する結晶質石灰岩のストロンチウム同位体比から結晶質石灰岩の起源ならびに飛騨変成岩類と字奈月変成岩類が同位体比によって識別できるかどうかを検討する.

(研究期間:1996年6月24日〜7月6日)
 方法: 今回用いた試料は,富山県の宇奈月地域,利賀地域,片貝川流域,そして福井県の荒島岳南東方地域,岐阜県の石徹白地域の結晶質石灰岩である.また,同時代の石灰岩類の値と比較するために南部北上山地の試料を含ませた.上記の石灰岩類20個を,質量分析装置を用いてストロンチウム同位体比を測定した.これらの値を海洋ストロンチウム同位体比進化曲線に対応させた.
 結果: すべての試料に対して非常に精度のよいデータを得ることができた.データを整理した結果,石炭紀の石灰岩は87Sr/86Sr値で0.7078〜0.7082をしめし,ストロンチウム同位体比初生値をあらわしていると考えられる(字奈月,石徹白).年代未詳の石灰岩では,荒島岳地域において0.7080〜0.7082を,利賀地域においては0.7081〜0.7082を示す.片貝川の試料はこれらよりやや高い値を表す.北上山地の試料の中に0.7071という非常に低い値をしめすものがある.これはペルム紀における海洋ストロンチウム同位体比の急激な低下に関連するものと考えられる.今回の試みにより,上記の目的を達成できる可能性が示された.さらに多くのlocalityの試料を測定し,比較検討を行なっていくことは非常に興味深いものと思われる.

(研究期間:11月5日〜11月21日)
 今回,前回の研究の続きとして飛騨周辺地域に分布する石灰質変成岩類のSr同位体比の測定を行なった.前回測定した宇奈月と石徹白の石灰質岩を層準を追って分析した結果,宇奈月では見かけの上位へ同位体比が減少し,石徹白では上位ほど増加する傾向が見られた.これらを石炭紀における海洋ストロンチウム同位体比進化曲線に対応させると,石徹白地域では層序が正常で宇奈月では層序が逆転している可能性が示唆される.利賀地域では最下部の結晶質石灰岩がやや低い値を示すほかは,ほぼ同様な値を示している.荒島岳地域の結晶質石灰岩は,下位から上位へ同位体比が増加してから減少して再び増加するパターンが見られる.これも石炭紀に見られる特徴である.上記の石灰質岩類は石炭紀ないしは上部古生代に起源を持つ可能性が考えられる.
 次に上記の石灰質岩類と飛騨変成岩プロパーに伴われる結晶質石灰岩のSr同位体比を比較するために典型的な飛騨変成岩に伴われる石灰質岩を分析した.用いた試料は前回の片貝川地域のほかに,富山県の和田川地域と水無川地域,岐阜県の小鳥川地域の結晶質石灰岩である.結果は,和田川と水無川の岩石は片貝川と同様に87Sr/86Srで0.7077〜0.7082を示すことが明かとなった.これに対して,小鳥川地域の岩石は0,7082〜0.7086のやや高い値を示す.以上の結果は,飛騨変成岩に伴われる石灰質岩は宇奈月変成岩類に伴われるそれとSr同位体比において大差はなく,いずれも顕生代,強いて言えば古生代の中期から後期に起源を持つと考えられる.

 最後にこの研究で用いたBurke et al.,1982の海洋Sr進化曲線の正当性を検討するために,シルル紀〜ペルム紀の石灰岩試料について分析した.シルル紀の試料は岐阜県-重ケ根,デボン紀の試料は岐阜県福地地域と楢谷地域,石炭紀の試料は岐阜県荒城川地域と北上山地の鬼丸層,ペルム紀の試料は岐阜県の森部地域と新潟県黒姫山の石灰岩を用いた.結果は,多少ばらつく物も存在するが,大部分の試料は進化曲線と調和的な値を示し,Sr同位体比初生値を保持していると思われる.従って,Burke et al.,1982の曲線は大まかな点では正しいようである.

 以上,飛騨周辺の石灰質岩類のSr同位体層序学的研究を行なってきたが,各々の岩石は堆積当時の同位体比をおおよそ保持していることが明らかになったと言えよう,飛騨変成岩に伴われる石灰質岩類と字奈月変成岩類に伴われる石灰質岩の値が類似していることは特筆すべきことである.全てではないにしても,上記の飛騨変成岩類は今まで考えられていたほど古い時代のものではない可能性が示された.今後さらに,点在する飛騨変成岩類ならびにアジア大陸に分布する石灰質岩類の同位体比を測定し,比較検討することは重要かつ非常に興味が持たれるところである.


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Institute for Study of the Earth's Interior