火成活動からみた背弧海盆の形成機構

Formation mechanism of back arc basins as deduced from volcanic activities

横瀬 久芳

Hisayoshi Yokose

熊本大学理学部地球科学教室・助手

受け入れ教官:加々美 寛雄


【研究目的】
 プレートが収斂する島弧-海溝系では,多くの場合,海溝と反対側に海盆が存在する.この背弧海盆の形成過程は,現在でも多くの謎が残されており,詳しい形成機構は解明されていない.この解明を疎外する要因の一つとして,背弧海盆が海面下2000m以深に存在することが挙げられる.

 ユウラシアプレートとフィリピン海プレートが収斂する地域に存在する島弧が琉球弧であり,九州はその弧状列島の北端部に位置する.この琉球弧の背弧海盆は,東シナ海の海底に存在する沖縄トラフである.近年,地質学的・岩石学的・地球物理学的観察から,この沖縄トラフが北方延長部において九州に上陸していると考えられるようになってきた,背弧海盆の凹地に相当する陸上の地形学的特徴が,九州中央部を東西に横断する“別府-島原地溝”に認められている.もしこれらの説が正しいとすれば,別府-島原地溝は,背弧海盆の形成過程を陸上で解析できる大変ユニークな地域といえる.

 第一近似的に,マグマの示す地球化学的特徴は地下深部の起源物質(マントルあるいは下部地殻)を反映する.特に,同位体組成は,起源物質の変遷過程を追跡する上で有力な武器となる.マグマの地球化学的特徴を決定しうる物質について,表面電離型質量分析装置を用いてSrおよびNdの同位体比を測定し,起源物質の変遷に関する考察を行うことを目的とする.

【研究方法】
 火山岩類の化学的特徴は,マントル物質の状態を推定する上で大きな手掛かりをあたえてくれる.特に火山岩類の時系列変化は,地下深部物質の状態変化に対応する.特にマントルと平衡に存在したと考えられる,マグネシュウムに富む玄武岩類は,直接入手不能なマントル物質の状態変化を過去に遡って解析することを可能にする.そこで,リフトが上陸したと考えられる地域の火成岩類に関する地球化学的検討が背弧海盆の形成を解く鍵となりえる.

 研究目的で述べたように,別府-島原地溝帯は九州に上陸した沖縄トラフの現われであり,そこに分布する火山岩類は,沖縄トラフつまり背弧海盆の形成に関連した火成活動である可能性がきわめてたかい.しかしながら,別府-島原地溝に分布する火山岩類は,主に安山岩類からなり,玄武岩類は島原半島南部に小規模に分布するに止める.安山岩類の場合,地殻内での停滞時間が長いと考えられていることから,地殻との相互作用やマグマ自身の分化に伴う組成変化をすでに被っていることが予想される.地下深部物質の運動様式を解析する上で,マグマに二次的影響をおよぼす成分(地殻物質)を把握しておくことは地球化学的解析を行う上で重要である.地殻物質の化学組成を厳密に決定することで,始めて当初の目的が達成される.

 そこで,本研究ではマグマ自身ではなく,地殻に関する地球化学的諸量の決定を先行して行う.九州中西部の地殻を構成していると考えられるゼノリスに関して,同位体比の測定を行い.地殻内の地球化学的組成空間を解明する.

【研究結果の中間報告】
 マグマの通路となる地殻物質に関して同位体比の測定を行った.測定した各岩石の地殻内における位置は,横瀬・山本(1996)モデルに従った.Figure 1に,測定結果を模式的に示した.

 下部地殻を構成すると考えられる,斑レイ岩質岩はこれまで報告されている玄武岩類とほぼ等しい同位体組成を有する.中ないし上部地殻を構成している岩石は,これまで報告されている火山岩類と明らかにことなり高いSr同位体比を示す.

 火山岩類と地殻物質との相互作用に関しては,これらの同位体比を含めて総合的に今後解析したい.


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Institute for Study of the Earth's Interior