中皮腫を含む肺におけるさまざまな悪性腫瘍は、ある種の繊維や粒子による被ばくによって引き起こされるといわれているが、その発がんメカニズムはまだ十分に理解されていない。本研究では、アスベスト小体(アスベスト繊維とそれに付着しているタンパク質)と含鉄タンパク質小体を、悪性中皮腫を発症した患者の肺から取り出し、地球物質科学的データ解析を行った結果、肺に吸い込まれた鉄を含むアスベスト(茶石綿・青石綿)や鉄を含む粉塵、及び習慣的な喫煙が、鉄貯蔵タンパクであるフェリチンの形成と集合を促し、不溶性の含鉄タンパク質小体を肺中に作り出すことが明らかとなった。この含鉄タンパク質小体(フェリチン-オキシ水酸化鉄)は特定の元素を選択的に吸着して肺中に固定する。特に、放射性元素であるラジウムの濃度が海水の数百万倍にも達することが明らかとなった。ラジウムとその娘核種による局所的かつ強力なα線被ばく(ホットスポット被ばく)は肺組織のDNAを損傷し、悪性中皮腫細胞を含むいろいろなタイプの腫瘍細胞を生じ、悪性中皮腫だけでなくさまざまながんの原因となっている可能性が高い。すなわち、がんの発生は、長期に渡る鉄に富む粒子の吸入とフェリチン-オキシ水酸化鉄の増加、肺中での含鉄タンパク質小体へのラジウムの蓄積によるものと考えられる。(2009年8月7日)
Nakamura E., Makishima, A., Hagino, K., Okabe, K., Accumulation of radium in ferruginous protein bodies formed in lung tissue: association of resulting radiation hotspots with malignant mesothelioma and other malignancies, Proc. Japan Acad. Ser. B, 85, 229-239, 2009. Abstract (J-STAGE) 邦訳版(ISEI) Supplementary information (ISEI)
図1 悪性中皮腫患者から分離された含鉄タンパク質小体の元素パターン(始原的マントルと、鉄27%で規格化)
図2 ホットスポット肺内放射線被曝と悪性中皮腫・その他のがんの成因モデル