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  岡山大学 地球物質科学研究センター 実験地球物理学部門を中心とする地球内部物理学研究室は
  地球内部を構成する鉱物の物理化学的性質に関する実験的研究を通じて
  地球型惑星の構造・ダイナミクス・進化の解明を行っています。
  ここでは、私たちのグループの研究方針について説明します。 


 ◆目次◆ 
   1.問題意識

   2.アプローチ 


 1. 問題意識

 地球内部に関して、私たちは以下のような問題意識を持っています。


  
1. 地球形成初期において、核とマントルはどのようなプロセスによって分離したか?
  
    地球は炭素質コンドライトに近い組成の隕石を材料物質とし、その中の金属部が融解し
    
それが集積・沈降することによって、核とマントルが分離したと考えられています。
    この場合、
マントルの材料となる岩石部は固体だったのでしょうか?それとも融解し
    大規模な
マグマの海を形成していたのでしょうか?


  
2. マントル内部はどのように運動しているか?
  
    マントルは大部分固体の岩石から形成されていると考えられています。
    けれども、長期的には流動し、所謂
マントル対流が起きていると考えられています。
    では、固体の
岩石はどのようなメカニズムで流動するのでしょうか?
    そして、マントル内部では、
岩石は一体どのくらい軟らかいのでしょうか?
    マントル内部は、実際には
どのくらいの速さで流動しているのでしょうか?


  3. 地球内部はどのくらい熱い?
  
    地表からボーリングを行うと、坑内はどんどん高温になっていきます。
    地球内部は熱いことは確かなようです。では、実際には
どのくらい熱のでしょうか?
    1,000℃?それとも10,000℃?地球の中には温度計を入れることが出来ません。
    では、
どのようにしたら地球内部の温度を知ることができるしょうか?


  4. マントルはどのような岩石で構成されているか?
  
    地球のマントルは岩石で構成されていると考えられています。
    では、一体
どのような岩石で構成されているでしょうか?
    地震波でマントル内部を見てみると、中は決して一様ではなく、様々な特異な構造があります。
  
    例えば、下部マントル上部には、
地震波を鋭く反射する領域が多数見つかっています。これは何でしょうか?
    また、マントルの底200km(圧力123GPa)には、地震学的異常(速度不連続・高異方性)が
    観測されていて、異なる物質で出来ていると考えられています。
    この領域は
D”層と呼ばれていますが、一体何でしょうか?
    近年の研究では、下部マントルを主要に構成する鉱物であるMg-ペロフスカイトが
    高圧相(
ポストペロフスカイト相と呼ばれています)に相転移する為といわれていますが、本当でしょうか?


  5. 核はどのような物質で構成されているか?

    地球の表層は地殻で覆われ、その下にマントルがあります。
    マントル物質を直接手にとって見ることは易ではありませんが
    それでも最上部マントルの物質は採集することが出来ます。
    しかし、核の物質は直接手にとって見ることは出来ません。 
    核は鉄-ニッケル合金であると考えられていますが、本当のところ
核はどのような化学組成なのでしょうか?


  6. 地球内部には水が多量に存在するか?

    地球内部を地震学的手法や電磁気学的手法で観測してみると、通常の岩石では説明困難な現象があります。
    例えば、海洋底のアセノスフェア最上部の電気伝導度は
    普通のカンラン岩では考えられないほど、高電気伝導度です。何故でしょうか?

    多くの研究者は、これはマントル内部に水が存在し、それによって高電気伝導度となっていると考えています。
    このように、水の存在を仮定すると説明可能な現象が色々あります。
    しかし、マントル物質が直接融解して出来たと考えられる海嶺玄武岩に含まれる水の量は僅かです。
    本当に
マントルには多量の水が存在するのでしょうか?

   2. アプローチ
   前述の問題意識のもと、私たちは地球内部を構成すると考えられる物質の様々な性質を決定し
   それを様々な地球物理学的観測と比較・対照し、地球内部に関するより良い理解を目指しています。
   そして、地球内部は、
超高圧超高温条件下にあるのは確実ですので
   地球内部物性
の研究は、このような極限状態で行っています。
 
   前述の諸問題に対する我々のアプローチは以下の通りです。


  1. 超高圧下での始原物質の溶融実験
   
    地球の最上部マントルを構成するカンラン岩や、地球材料物質の最重要候補である
    コンドライト隕石を、マントル深部の圧力条件で融解させ
    「マグマの海」を実験室内で再現します。
    そして、
マグマ-金属間の元素分配・濡れ関係等を調べ、そのデータをもとに
    核−マントル分離過程のシミュレーションを行っています。


  2. 地球内部構成物の弾性的性質の決定
  
    地球内部を探査する最も有力な手段は、地震学的手法です。
    私たちは、鉱物の弾性的性質を決定し、地震学的観測から地球内部の組成と温度に関する情報を得ます。

    超音波法は弾性定数決定法として最も基本的な手法です。
    私たちは、静水圧下で10GPa(深さ300km)までの圧力で超音波法による鉱物の弾性定数決定を可能としています。
    そして、新しいデータ解析法を開発し、より高精度な測定を行っています。

    ダイヤモンドアンビル中での
ブリリアン散乱
    マントル最深部の圧力で弾性定数を決定する現在唯一の手法です。
    私たちは、これにレーザーによる加熱と、X線回折による相同定と圧力測定を加えて
    マントル深部の温度圧力条件での下部マントル構成物質の弾性定数決定を行う技術の
    開発を行っています。

    共振法は最も高精度な弾性定数測定法です。共振法は高圧下では行うことは不可能です。
    その代わり、常圧下で弾性定数の温度依存性を極めて高精度で決定することが出来ます。
    また、高精度の共振法に不可欠な
巨大単結晶の合成も行っています。

    第3世代放射光施設のおかげで、近年新しい弾性定数測定法が可能になっています。
    それは
高分解能X線非弾性散乱です。この手法により
    ブリリアン散乱や超音波法では測定困難な物質の弾性定数を高圧下で測定しています。

    超音波法以外の弾性測定法は、原則的に単種類の相に対して測定が可能です。
    しかし、マントルを構成する岩石は3種類以上の鉱物から構成される複合体です。
    私たちは、実験とシミュレーションを組み合わせて、
複合物質の弾性の研究を行っています。


  3. マントル構成鉱物の電気的性質の決定
  
    電磁気学的観測も地球内部に関する重要な情報を与えてくれます。
    電気伝導度は、弾性定数と異なり、水・マグマの存在の検出や、鉄の含有量の見積もりに有効です。
    これらの観点から、マントル深部の温度圧力条件下での鉱物の電気伝導度測定を行っています。


  4. マントル構成鉱物のレオロジー
  
    マントル深部では、物質の流動メカニズムの一つに
拡散クリープがあります。
    拡散クリープ速度は、珪素など鉱物の骨組みとなる元素の自己拡散係数から、見積もることが出来ます。
    私たちは、マントル構成鉱物の
巨大単結晶合成を行い、これを用いて珪素の自己拡散係数測定を行い
    マントル物質の流動則の見積もりを行っています。

    マントルを構成する岩石のように、複数の相からなっている物質は
    その流動則が組成と温度圧力だけの関数ではなく、相分布や粒径等にも大きく依存しています。
    私た ちは、複合物質の流動を左右すると考えられるパラメータの影響を一つ一つ解きほぐし
    地球内部を構成する
岩石(鉱物複合体)の流動則の確立を試みています。


  5. マントル構成鉱物の状態方程式

    マントル構成鉱物の体積−温度−圧力の関係を知ることは
    マントルの構造・ダイナミクスを知る上で基本的に重要です。
    特に、熱膨張率は地球内部の温度分布を見積もる上で重要です。
  
  X線その場回折の手法により、マントル構成鉱物の高温高圧下での体積測定を行っています。


  6. 相平衡関係の決定
  
    物質の高圧相転移を調べることは、超高圧の研究で最も基本的なものです。
    主に
X線その場回折の手法により、高圧相の相平衡関係の決定を行っています。


  7. 熱輸送係数の決定
  
    地球内部運動の最も重要な駆動力は、不均一な温度分布による浮力です。
    地球内部の温度分布をシミュレートするには
    構成物質の熱輸送係数(熱伝導率・熱拡散率)の知識が不可欠です。
    高温高圧下で鉱物の
熱伝導率と熱拡散率の同時測定を行っています。


  8. 流体相の物性
  
    地球のマントルは基本的には固体だと考えられていますが
    水流体やマグマなど流体相は、その高易動度・高拡散係数・高電気伝導度
    低弾性率等の特異な性質の為、存在するとすれば地球内部で大きな影響を与えます。
    我々は、流体相と鉱物の濡れ関係を調べ、流体相の岩石物性に対する影響を調べています。
    また、
X線ラマン散乱などの最先端の実験技術を用いて、流体相の構造や、ダイナミクスの研究を行っています。


  9. 超高圧実験技術の開発

    地球深部に相当する超高圧超高温という極限条件下で物性測定を行うことは、挑戦的課題です。
    地球内部物性の分野での新しい研究には、新しい実験技術の開発が必要不可欠です。

    私たちが最も力を入れている技術開発は、
焼結ダイヤモンドアンビルによる
    マルチアンビル装置での超高圧発生
です。
    通常のマルチアンビル装置では、発生圧力は30GPa(深さ820km)に限られていて
    それ以上の高圧での実験にはダイヤモンドアンビルセルが用いられています。
     しかし、マルチアンビル装置にはダイヤモンドアンビルセルに無い様々な長所がありますので
    マルチアンビル装置による発生圧力領域の拡大が望まれています。
    我々は、アンビル材として焼結ダイヤモンドアンビルを用いることにより
    発生圧力を大幅に拡大することを試みています。
    そして現在私たちは世界最高の72GPa(深さ1730km)の発生に成功しています。
    この圧力発生技術開発は単に試行錯誤で行うだけではなく、綿密な
応力場解析を行い
    それを指針として行っています。

    焼結ダイヤモンドアンビルによる高圧力発生だけではなく
    上記1〜8に紹介した研究全てにおいて、それぞれに新しい技術開発が必要です。
    我々は、常に新しい実験技術の開発に取り組んでいます。