論文の解説JMPS2016-1

  • Kanzaki, M. and X. Xue (2016) Cation distribution in Mg-Zn olivine solid solution: a 29Si MAS NMR and first-principles calculation study, J. Mineral. Petrol. Sci., 111, 292-296の日本語解説

イントロ

  • 固溶体の構造を調べるときに回折法を使うのが普通だが、それで得られるのは平均的な構造で、結晶内の席を2つ以上の元素が確率的に分布しているなどが分かる。これはこれで重要であるが、構造のローカルな描像は見えてこない。今回調べたオリビン構造の場合だと、Mgの端成分(forsterite)中のSiのすぐ近くには4つの酸素があり、SiO4四面体を形成している、その酸素はさらにMgにつながっている。したがってSiから見ると第2近接の原子はMgとなる。オリビン構造の場合には、MgやZnは八面体席であるM1とM2を占める。そこにZn2SiO4成分をわずかに固溶させると、あるSiの第2近接のMgの1つがZnに置き換わるが、他の大半のSiの第2近接はMgのままといった局所的な構造の違いが生じる。さらに固溶させていくと、第2近接にZnが2つ、3つと増えていき、その分Mgが減る。このような状況はSiの局所構造に敏感な29Si MAS NMR法を使えば見えるかもしれない。それを実際に試してみようというのがこの研究の目的であった。また、そのような局所構造に対応するNMRピークを同定するために第一原理計算で、29Si MAS NMRの化学シフトを予測することも行った。

方法

  • 調べたのは(Mg,Zn)2SiO4固溶体で、Znが5%, 10%の固溶体を常圧高温で合成した。また、29Siを濃縮した試料も合成した。第一原理計算はQuantum-Espressoを使い、スーパーセルでMgの1つをZnで置き換えたもので構造最適化を行った。そのデータを使い、QE-GIPAWを使って化学シフトを計算した。

結果と議論

  • Mg端成分(forsterite)の場合、Siは1種類の席しかないので、29Si MAS NMRスペクトルには1つのピークしかないが、固溶体を測定してみると、それ以外に3つのピークが出現した。化学シフト値はMg端成分のピーク位置から相対的に0.2, 1.1, 2.3 ppm離れている。これらのピークを第一原理計算の助けを借りて、その局所構造を同定した。0.2 ppmのピークはSiO4四面体と角(酸素)を共有した6つの(M1+M2)八面体のうち、1つがZnに変わったもの、1.1 ppmのピークはSiO4四面体と綾(酸素2個)を共有した2つのM1八面体のうち、1つがZnに変わったもの、2.3 ppmのピークはSiO4四面体と綾(酸素2個)を共有した1つのM2八面体にZnが入ったものと、それぞれSiO4四面体中のSiが感じた違いを反映している。本研究で、このような局所構造の違いが、29Si MAS NMRではピークとして明瞭に観察されることが分かった。
  • ここで1つ面白い発見があり、オリビン構造中にはM1, M2の2つの八面体席があるが、それらがSiO4四面体と綾を共有する場合には、それが独立したピーク(1.1, 2.3 ppm)として見えることである。2つのピークは十分離れており、ピーク面積を定量することで、M1, M2席にどれだけZnが入っているかを知ることができる。従来はこのような情報は回折法で求められていたが、今回のようにZn量が少ない場合には定量は簡単ではないが、29Si MAS NMR法ではM1, M2席へのZn分布がそのような場合でも定量的に分かる。今回得られたスペクトルについて詳しく定量してはいないが、ZnがM1席へ濃集する傾向がスペクトルから見て取れる(なお、綾共有するM1はM2の2倍あるため、ピーク高さも2倍になっていることに注意)。この傾向は第一原理計算でM1席にZnが入った方がエネルギー的に安定であることなどからも支持される。本研究は29Si MAS NMR分光法が固溶体の局所構造を調べるために有用であることを示した。また、この手法を使えば他の構造でも結晶内の原子分布を知ることができる。しかし結晶内席分布を定量的に見るには、SiO4四面体と綾を共有する構造であることが必要条件と予想される。

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Last-modified: 2017-01-11 (水) 11:59:23 (318d)