ピストンシリンダー装置のその場圧力測定

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ピストンシリンダー装置の光ファイバー+ルビー蛍光法を使ったその場圧力測定法の開発


 2020年の高圧討論会のポスターで共有がうまくできずに、ちゃんと発表できませんでした。ポスターへのリンク。ご質問等ある方はメールでお知らせください。

前書き

 ちょっとした自作でも紹介しているように光ファイバーを使った分光器が最近完成しました(Littrow型分光器の製作)。それと以前に作っていたレーザーを光ファイバーに入れて、散乱した光を同じ光ファイバーで観察する装置ルビー蛍光用入射光学系作成を組み合わせて、ピストンシリンダー装置の圧力をルビー蛍光法を使ってその場測定する試みを始めました。いくつか行った実験の結果を紹介します。

方法の説明

 ルビーの蛍光R1線は圧力により波長が長くなります。その性質を利用してダイヤモンドアンビルセル高圧装置(DAC)では、試料部にルビーのかけらを入れておいて、それのR1線の波長を測ることで、圧力測定ができます。DACではダイヤモンド窓を通して、レーザーの導入、蛍光の測定が簡単にできるので、この方法は簡単に利用できますが、ピストンシリンダーやマルチアンビル高圧装置ではアンビルが透明ではないため、そのまま応用することができません。WCアンビルの中にダイヤの窓を付けるようなことは行われてますが、普段使うには無理があります。しかし、物性系の高圧低温の研究では、光ファイバーをガスケットの隙間などに導入して、ルビー蛍光法を使うことが行われてます。私も同様なことを試みているところですが、私の場合は全て自作するところから始めているので、なかなか進みが遅いのですが、何とか装置的には測定できるところまで来ました。
 レーザーは秋月で買った緑の半導体レーザー(< 1 mW)を使い、単3電池2本で駆動してます(その後、3V DCアダプターを使うように変更)。そのレーザーをレンズで集光して光ファイバーの一端から導入します。光ファイバーのもう一方の端にルビーまたは圧力センサーになる物質(Sm:SrB4O7とか)を近くに置いておくと、レーザー光により蛍光を出します。その蛍光の一部が同じ光ファイバーにも入ってくるので、その蛍光を集光して、別の光ファイバーに送り込みます。その光ファイバーを分光器の入力側につなぎます。この辺りはルビー蛍光用入射光学系作成でも図付きで説明してます。これでルビー蛍光等を測定できるようになります。今の場合は1本のファイバーをレーザー光導入と蛍光のサンプリングの両方に使ってますが、それぞれで別のファイバーを使うことも可能です。
 分光器の波長の校正には、これも以前に書いたネオンランプのスペクトルを使ってます。そこで書いたようにアルゴンも少し入ったサトーパーツのネオンランプを使って校正を行ってます。アルゴンも含めると、測定領域で5点ほど校正用データポイントが測定可能となってます。
 なおピストンシリンダー装置では単純にシリンダー内の試料をストレートなピストンで押しているため、圧力は単純にピストンにかけた荷重をピストン断面積で割ると、計算できます。しかし、実際には摩擦が発生するために、この計算された圧力よりも実際の圧力は低くなります。私が使っている塩化ナトリウムを使ったセルでは、タルク(滑石)を使ったセルに比べて、比較的この摩擦の影響が少ないと言われてます。

実際の測定(初回)

 使ったピストンシリンダー装置はQuickPressで紹介してます。ピストンシリンダー装置では通常温度を熱電対を使って測定します。熱電対は高圧セルの中心部近くまで導入されます。このために熱電対用に4つ穴の開いたアルミナを使います。当然、光ファイバーもここを利用して、高圧セルの中心部分へ導入するようにします。
 ピストンシリンダー装置で光ファイバーを使う方法で難しい点は、熱電対が外部に出てくるところ(ベースプラグのところ)でファイバーを90度曲げる必要があることです(これはほぼ全ての地球科学で使われているピストンシリンダー装置で共通な仕様)。熱電対は金属製なので曲げても何ら問題はありませんが、光ファイバーは曲げには弱い(折れる)のと、曲げると内部の光が外に漏れる問題が生じます。光の漏れはそれほど深刻ではないのですが、折れると測定ができません。裸のファイバーを扱ってみると、折れる可能性が非常に高く、うまくいきませんでした。そこで既製品のファイバー径200ミクロン程度のパッチケーブル(両端が研磨されてSMAなどが使えるようになっている)を買って、その片側を剥がして使うことにしました(ちょっと勿体ない気がしますが、加工しない片側の方は研磨せずにすぐSMAプラグに刺せるので便利です)。アルミナ棒の穴に入る部分は穴の径が小さいので(ファイバーや熱電対で直径200ミクロンくらい)、光ファイバーを覆う被覆を全て剥がす必要がありますが、ちょうど曲がる部分は被覆の一番内側の部分を残しておくことを思いつきました。これで、ファイバーが折れずに測定できるようになりました(アルミナ棒から外の部分の穴はもっと大きいので被覆があっても入る)。なおこちらの端は特に研磨はしてません。ピストンシリンダーの高圧セルを組んでいる途中の写真を下に示します。緑レーザーを導入してチェックしている状態を写したので、セルの先端部分が緑色になってます。今回はファイバーのテストなので熱電対は入れてません。つながっているケーブルが光ファイバーです。見づらいですが、青い部分が一番内側の被覆になります。

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 上記のセルを組み上げて、ピストンシリンダー高圧装置へ導入しました。そして1.5 GPa相当の荷重まで小刻みに上げて測定しました。その結果、1.5 GPaまで何ら問題なくルビー蛍光スペクトルを測定することができました。強度は落ちるかと思ったのですが、実際にはむしろルビー蛍光強度が圧力とともに強くなりました。これはファイバー先端とルビーが近づいたためのようです。測定時のピストンシリンダー高圧装置付近の様子を下に示します。ちょうど加圧直前の状態で、分光器はここに写っていません。黒い物体はレーザーを光ファイバーに送り込み、同じファイバーを戻ってきた蛍光を別の光ファイバーに導入する自作の光学系です(ルビー蛍光用入射光学系作成)。

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 さて測定後、R1線の位置をfitykで決めて、1.5 GPa相当荷重をかけた時の圧力を計算してみました。その結果は…圧力がほとんどゼロでした。これには実は思い当たるところがあります。光ファイバー先端が実はアルミナの穴の少し内側に入ってました。また、その上にルビーのチップを置きました。そのため光ファイバー先端は強度の強いアルミナ(ルビーもアルミナです)で覆われてしまっていたため、荷重をかけても光ファイバー先端には圧力が伝わっていなかったと考えられます。次回はアルミナ先端から十分出して、測定するようにしたいと思ってます。しかし、1.5 GPaまでファイバーが切れることなく十分測定できることが分かりました。自作した分光法装置等も問題なく動いてます。1.5 GPa相当荷重(2200 psi)をかけた状態で測定したルビー蛍光スペクトルを下に示します。横軸はネオンランプで校正しています。ルビーは温度を上げると測定できなくなるので、高温でも蛍光線が測定できるSm:SrB4O7を使ってみたいと思ってます。高温になると光ファイバーが結晶化するなどが生じますので、どの温度まで測定できるかも明らかにする必要があります。マルチアンビル高圧装置への応用も考えてます。

ちょっと細かい情報:

 使っている光ファイバーパッチケーブルは、ソーラボで売っていたマルチモードの200 micron径で両端がSMAになっているもの。分光器等でSMAを使っている関係。長さは2メートル(これより長いのがない)。NAは0.39。NAは0.5のものもあり、蛍光を取り込む点ではNAが大きい方が有利と思われるので、次回は0.5を買う予定。
 使っている緑レーザーは秋月電子通商で買ったもので、出力1 mW弱、3,000円くらいのもの。DC3Vで駆動する。

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測定2回目(20200625)

 今回はファイバーの先端をアルミナから少し出して、ファイバーの端面にルビーのかけらを接着しました。その周りは塩化ナトリウムの粉を詰めました。油圧が1000 psi (圧力計がアメリカ製なので…)まではきれいに測定できましたが、1500 psi以上で非常に弱くなりました。多分ルビーが端面から外れたのでしょう。1000 psiまでのスペクトルを示します。今回は蛍光線の圧力によるシフトが明瞭に見られました。単純に荷重/断面積からの計算では、1000 psiで0.69 GPaとなりますが、ルビーR1のシフトからは0.7 GPaの圧力が得られました。摩擦は無視できる?

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 1500 psi以上でも測定時間を非常に長くするとノイズは大きいのですが、何とか蛍光を見ることが可能でした。ただ不思議なことに、2180 psi (1.5 GPa相当)ではむしろ圧力が下がっているように見えました。ネオンランプはルビー測定の合間に測定していて、ネオンランプの輝線の位置は時間で変化していなかったので、分光器のせいではなさそう。
 2180 psiにおいて、700度まで加熱して、10分程度保持した。ルビーは低側側では弱く見えていましたが、高温では測定できなくなりました(これは正常な振る舞い)。急冷後は加熱前と同程度の弱いながらも蛍光スペクトルをまた測定することが可能でしたので、温度による光ファイバーの結晶化はこの程度の温度ではまだのよう。ただ、圧力自体はやはり予想よりも低いように見えました。
 この内容を2020年の高圧討論会と鉱物科学会でポスター発表しました。

測定3回目(20220422)

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 しばらく間が開きましたが、また再開しました。ファイバーの先端をアルミナから出すのは前回と同じです。今回は紫外線硬化エポキシとルビー粉末を混ぜて、それをファイバー先端にのせて硬化させました(前回は単結晶のかけら1個を先端に接着しました)。周りはNaClで囲まれています。パイレックスを使わないNaClセルを使いました。これで室温で2000 psiまで加圧しました。100 psi毎にスペクトルを測定、減圧時も同様に測定しました。
 500 psiまでは蛍光が強く観察されたのですが、その位置はほとんど移動しませんでした。600 psiで蛍光の強度はかなり弱くなりましたが、同時にR1位置が大きく変化しました。どうもここまではファイバー先端には圧力がまだかかっておらず、600 psi近くで急に圧力がかかり、ファイバーに亀裂が入ったようです。この理由はまだ不明です(他のパーツが圧力を支えていたと思われる)。弱いながらもスペクトル測定は十分可能だったので、そのまま2000 psiまで加圧して、減圧時もスペクトルを測定できました。右にスペクトルを示してます。500 psi以下はピーク強度が高いので、同じ程度になるようにスケールしてます。横軸は検出器のピクセル位置のままですが、シフトする様子は分かると思います。一番下が0 psiで100 psi毎、2000 psiまでの加圧課程でのルビー蛍光R1, R2のスペクトルを示しています。最初ほとんど変化しませんが、途中で急にシフトして、後は連続的に移動します。

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 実験後にピーク位置をフィットして圧力を求めました。ルビーから得られた圧力と荷重(実際はラムの油圧です)の関係を右に示します。なかなか不思議な結果が得られました。上向きの三角が加圧過程、下向きの三角が減圧過程での光ファイバー先端での圧力です。直線は荷重から計算される平均圧力です(摩擦ゼロ仮定)。面白いことに予想される圧力よりも高い圧力が600 psi以上では得られました。4〜5割高い圧力になってました。また減圧時にはヒステリシスが見られました(同じ荷重で加圧時よりも圧力高めで、摩擦の影響と思われる)。
 なお、回収してファイバー先端位置をチェックしましたが、NaCl中にあることを確認しました。


Last-modified: 2022-04-23 (土) 19:59:17