氷VI観察用顕微鏡の作製

展示室用レバーDAC+観察用顕微鏡の作製

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前書き

展示室に高圧実験関係の展示も必要という意見があったので、DAC(ダイヤモンドアンビルセル)高圧装置を置くことにした。そして、高圧氷VIを普段は展示しておき、デモンストレーションができる時は水から氷VIまたは氷VIの融解などを見せることができるようにすることにした。なお、高圧氷はDACのデモンストレーションの鉄板です。decompressionでマグマが生じることのデモンストレーションにもなります(最近のMSAtalkで話題になっていた)。等温で圧力を下げるとVIが融けるので。

そのためには適当なDAC装置とその試料部を拡大して見せる顕微鏡等が必要になる。DACとしては古いレバー式DACを神崎が持っているので、それを活用することにした。顕微鏡部分は以前に作製した偏光顕微鏡と同じように自作した。予算としては大学の運営費交付金を使っている。なお、このような高圧氷を作る教育用デモンストレーション目的として、シンテックという会社がSEEDという製品を販売されているので、同様なことを考えている方は導入を検討されたらいいと思います。

HD CCDカメラ顕微鏡部分の作成

まず顕微鏡部分の作成から。偏光顕微鏡と同じように主にストックパーツから作った。架台部分はエドモンド・オプティクスで売っていたラックピニオン等を使った。顕微鏡の光学系は、ミツトヨの超長作動距離の対物レンズx10倍とf=100 mmの結像レンズを使って構成した。DACの場合、試料位置まで遠いので作動距離の長い対物レンズが必要となる。ミツトヨの無限光学系は本来f = 200 mmの結像レンズを使うのだけど、それだと鏡筒が長くなりすぎるので、f=100 mmのアクロマートレンズを使って、本来の半分にした。そのため倍率は半分になる(x10対物を使っても5倍)。ミツトヨの対物レンズはちょうどソーラボのケージプレート(SM1内ネジ)にねじ込めるので(本当は同じ規格ではないが)、ケージプレートとレンズ筒を使って顕微鏡を構成した。HDカメラはHayear社のものでCマウント仕様である。直接ソーラボのSM1ネジで接続できないので、SM1内ネジとCマウントネジを繋ぐアダプターを使って、HDカメラをレンズ筒に取り付ける。ただし、焦点を少し調整したいので、SM1内ネジのレンズ筒2つを繋ぐ、長めのSM1オスネジで固定用のリングが2つセットになったパーツがあるのでこれを使う。どれだけねじ込むかで焦点調整ができ、カメラの向きも調整できる。調整できたら固定用リングで絞めて回転しないようにする。そしてケージプレートをアルミのアダプターにM6ネジで取り付ける。そしてこのアルミのアダプターがエドモンド・オプティクスのラックピニオン架台部分に取り付けられる(架台取り付け部分は円形なので、簡易NCフライスでこのアルミ板の下側は円形に加工されている)。

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透過用光源が必要だが、これには簡単に白色LED+抵抗を基板にはんだ付けして使っている。
最初3 Vの電池で駆動していたが、電池交換が面倒なので電源アダプターを使うように変更。光量的にはなんとか大丈夫。

レバー式DAC

使っているのは古いHigh Pressure Optics社のレバー式のDACである。右の黒い円板部分を回すと、その力がテコの原理で右側の穴の部分を押すようになっている(押すプレート部分は裏で見えていない)。左側に取り出しているダイヤモンドが載っている台座2つ置いている。使用時にはこの2つがダイヤ先端を対向させて、穴の中に入ることになる。

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このDACは30年近く前に買ったもので、もともと最初にDACを開発したNBSの研究者が会社を作って売っていたもの。なぜNBSで開発されたかについては、Bob Hazenさんの"Diamond Maker"に当時のことが書かれていて興味深い。
昔AGU meetingのその会社のブースでその息子さんと少し話をしたことがある。今回は1 mmキュレット直径のダイヤモンドアンビルを使っている。アンビル位置の調整は台座をセットした後ではできないタイプなので、事前にやる必要があるので、その治具も作った。

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治具はアクリルのチューブに横穴を開けただけの簡単なもので、この中にダイヤの載った台座2つを対向させて入れて、2つのダイヤのキュレットのセンターを実体顕微鏡で見ながら、片側の台座にあるネジを回して合わせる。なお片側のアンビルは球座に載っているので、アオリ角調整はしなくても良いことになっている(押された時に回転して)。もっとモダンなDACだとここもネジを使って調整できるようになっているが、その機構は付いてない。
このDACを手動の中古40 mmXYステージに載せるようにした。これは試料の位置合わせのため。フォーカスには顕微鏡側のラックピニオンを使う。つなげるためのアダプターも簡易CNCフライスで作成。一番下の台にはポリアセタール板を使った。下の写真は顕微鏡部分とDAC部分を一緒にしたところ。

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その後、顕微鏡部分(対物レンズの後方)に偏光フィルターを入れた(これは固定)。また、照明部分の上側にも偏光フィルターを入れた(これは回転できる)。その上側に小型の回転NDフィルター(エドモンド)を取り付けて、光量調整ができるようにした。上の写真でそれらが見える。
また、ラックピニオンも最初は粗動だけだったが、微調整ができるものに現在は交換されている。HD CCDカメラはHDMIで出力できるので、HDMI入力のあるLCDディスプレイに直接繋いでいる(PCは経由せず)。展示時にはその方が良い。これだと電源を入れるだけで試料がディスプレイに表示されるので便利。カメラ自体はマイクロSDカードを付けると、静止画と動画を撮影して保存することもできる。これはデモンストレーション時にも使える。
一番上の写真は一応の完成後に展示室に置いた状態で、画面には氷VIが表示されている。対物はx20にした方が試料部分が画面一杯に広がるのだが、レバーを回した時に試料が移動して画面から外れやすいなどの理由からx10で使っている。展示だけの時はx20でもいいかも。

氷VIの観察

私の場合、純水(milliQイオン交換水)を使っているためか、氷VIへの転移がなかなか生じないことが多い(過冷却でなく過加圧?)。明らかにVIの領域なのに何の変化もない場合が多く、明らかにおかしいので降圧していると突然結晶化が始まり、VIの微小な結晶が沢山できる。右の写真はそのような状態。

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しばらく放っておくと、5から10個くらいの単結晶に粒成長する。この粒成長も興味深い。さらに圧力を下げると、氷VIが融け始める。小さいものから消えていく。また、結晶が丸くなる。この辺りは高校生・大学生対象なら結晶成長と絡めて説明したいところ。融け始めたら、すぐ再加圧してやる。そして結晶が少し成長するくらいで加圧を止める。そうするとVIと水の共存状態を比較的長く観察できる。結晶が成長するときは自形が発達するのがわかる。うまく単結晶を数個、理想的には1個にすることができたら、顕微鏡部分を傾けて、結晶がどちらに動くか見て、氷と共存する水のどちらが密度が高いかを見せる。傾けないでフォーカスを変えることでも結晶が下に落ちていくことがわかる。常圧の氷(Ih)と違って、氷VIは共存する水の中を沈む。下の写真は融け始めているところで、結晶が丸くなっている。偏光フィルターをクロスまでは行かないくらいに回転している状態でHDカメラで撮影した。そのため水の部分が真っ暗になってないが、結晶は少し色づいて見易くなった。氷VIは正方晶系で、光学的には1軸性である。偏光顕微鏡でもそうだったが、HDカメラを使うと綺麗な顕微鏡画像が撮れる。

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ガスケット

このDAC用のガスケットも作った。普通は硬いスチール等でガスケットを作っていて、穴は放電加工で開けるが(インデンテーションしてから穴を開ける)、2 GPaくらいまでならば真ちゅう(ブラス)に穴を開けるだけでも使える。真ちゅうくらいなら簡易型CNCフライスで加工できそうなので、いくつか作ってみた。真ちゅうはニラコで買った0.2 mm厚板を使っている。加工には0.4 mm直径のボールエンドミルを使った。中央の穴はエンドミルをそのままドリル的に使って直径0.4 mmの穴を開けるだけで、その後その周囲を直径5.4 mmの円形になるように削っている。ただ、フライスの精度がよくなく、バックラッシュがうまく取れなかったので、完全な円からはズレているが、十分使える。外径を5.4 mmの円形にするのは、ガスケットガイドの内径がちょうどその大きさのため。理想的にはガスケットをガイドにポンと置くだけでセンターリングが済むようしたいのだが、実際はズレているのが今の課題。とりあえずは沢山作って、使えそうなものを選んでいる。ガスケットガイドと呼んでいるものは実はワッシャであり、アンビルの台座部分に接着剤で固定しているが、こちらもセンターリングがちょっと怪しい。

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メモ

2 GPaまでいくと氷VIIが生じる。ガスケット周辺にVIとは屈折率の異なる部分が生じて、中央部へ伸びてくる。氷VIIは立方晶系なので光学的には等方。


Last-modified: 2020-12-08 (火) 09:42:21