作成2002.12.03

改訂2005.05.16

Welder(溶接機)製作記
地球物質科学研究センター・神崎正美
(mkanzaki@misasa.okayama-u.ac.jp)


前から見たところ

スライダックの1次と2次が絶縁されていないため,電源SWを2回路のものにして少なくともOFFの状態ではピンバイスやバイスがグラウンド(接地)とショートしないように改良しました.ただもちろんON状態では接触するとショートする可能性があるので注意してください.
 

注意:これを見て溶接機を作製して,怪我等の問題が生じても私は責任を持ちません.ご自分の責任で製作・利用下さい.ただ可能な限り質問等には答えます.

目的:
熱電対やPt管を溶接するための溶接機を自作する.

方針:経験的に白金系の熱電対や白金管の数mm程度の溶接では出力がDC 50V, 10Aもあれば十分であるので,これを目標に作る.また安くあげる(予算3万円).お金があって手間をかけたくないのであれば,DC安定化電源を買う手がある.上記の出力のものなら10万以下で買えるようだ.
 最初秋月電子通商の「実験室用精密級電圧安定化電源キット」が使えるのではと買ってみたが,電圧が足りない.そのためオーソドックスなスライダックで電圧を変えて,ダイオードブリッジ+電解コンデンサーで整流するタイプにした.ただ適当なICがあれば「実験室用精密級電圧安定化電源キット」のような回路を作ることも可能なようだ.

主なパーツ:
1)スライダック(可変トランス):0-130V, 5Aの物(10,890円).容量的には10Aの方が安全である.大きさの関係でこれにした.溶接は電流を流している時間が短いのでこれでも大丈夫か?特に今回の回路では放電SWを押したときに結構電流が流れるので10Aの方がいいと思う.分解して分かったがこのトランスは1次と2次が絶縁されていないため,電源SWは2回路分使って完全に切る.また当然電源ON時に電極のどちらかがグランドに触ると電流が流れるので注意しないといけない.
2)コンデンサー:電解コンデンサーは22000マイクロファラッド,耐圧63Vのものを使った(種類によるが4千円くらい).容量は「実験室用精密級電圧安定化電源キット」マニュアルに1A当たり2000マイクロFは必要と書いてあったので,今回は電流の上限は10Aくらいなので上記のものにした.かなりでかい.頭に取り付けネジ付きの物を買った.スライダック自体は130Vまでかけられるので,それに応じた耐圧の物が望ましい(でないとパンクする).しかし耐圧の高いものは値段が高いので,電圧が60V以上にならないようにスライダックにストッパーを付ける.
3)ダイオードブリッジ:「実験室用精密級電圧安定化電源キット」に付いてきたCP3508を流用.許容は35A, 800V.25A単相回路用のもの(耐圧200V)はRSにあって740円.
4)電源スイッチ(6P):電源用に2極,ランプ用に1極で3極必要.適当な3極がなかったので4極ON-OFFタイプを使った.2170円.元々2極のSWが付いていたところに後で交換したためと4極で大きいためかなり窮屈.ネオンランプ必要ないなら,2極でもいい.
5)ニクロム線:溶接する時に電流制限するための抵抗の替わりにニクロム線を使う.0.5mmくらいの直径なら1mくらいか(抵抗から計算するかテスターで実測して決める).適当なニクロム線がなかったので,手元にあったカンタル線もどきを使った.こっちの方が高価なので新たに買うならニクロム線の方がよい.これは直径0.35mmくらいで30cm程度で5オームになる.線は適当に巻いてコイル状にして場所を取らないようにする.
6)電圧計:電圧の表示のために以前作った秋月電子通商のICL7136使用のデジタル電圧計を使用.これ自体は電源に006P電池を使う.Welder用ケースが小さいことや液晶画面なのでケース内に取り付けると暗いことなどからケース外に置いて使用する.1800円.ほぼ同等品の完成品がアールエスコンポーネンツから3520円で手に入る(分圧抵抗の交換等のハンダ付け作業くらいは必要).あとでテスターで出力を比べてみたら,こちらの方が3−4割高い電圧を示す.ピーク値に近い値を示すのかもしれない.
7)ケース:タカチUC20-12-16DD. 4,260円くらい.ちょうどいい大きさ.
以上の部品(ニクロム線と電圧計を除く)はアールエスコンポーネンツから購入した.校費で支払いが可能である.ニクロム線はたとえばNilacoから手に入る.秋月は校費払いはできないようだ.
8)その他ネオンランプ,プッシュSW,ヒューズボックス,ヒューズ(5A),バナナプラグ・ジャック3組などの部品はストックルームから調達.
9)(追記:2003/10/10) 最初に使っていたバイスは小型ではあったが,背が高くて実体顕微鏡で見るときに焦点が合わせづらかった.最近Proxxonのマイクロバイスを買った.これはマイクロフライスマシン用であるが,背が低くてちょうどいい感じである.2,850円.通販の中正から買った.ここは校費払いもできる.ミニ旋盤,ミニフライス盤,ボール盤など売っている.
回路図:回路図を下に示す.交流は100V電源からヒューズとSWを通って一次トランスに流れる.電源SWを3回路接点にしてあり,もう一つの方はネオンランプを点灯させるために使う.このトランスは1次と2次が絶縁されていない.2次トランスで変圧された交流はダイオードブリッジで整流されて,電解コンデンサーで平滑化される.溶接用の電極棒はA, Bに接続される.ニクロム線を電極と直列につなぐのは,ここに流れる電流を制限するためである.例えばコンデンサー両端にかかる電圧が50Vであるとすると,ニクロム線5オームにより流れる電流は10Aに制限される(電極での抵抗は無視).この抵抗がないと電極間には大きな電流が流れることになり危険である.コンデンサー間の電圧をデジタル電圧計でモニタできるように,バナナジャックをケース背面につけた.さらに放電用にプッシュSWを付けた.これは使用後などにコンデンサーに溜まった電気をニクロム線を通して放電するためである.電極間をショートしてもいいので,絶対に必要なものではない.
 今回製作したものは,当初ニクロム線の5オームが2個付けられていて,5オームと10オームが選択できるようになっていたが,10オームで使うことはほとんどないため,その後の改造により溶接時には5オームだけとした.ただプッシュSWでの放電の際には10オームを電流が流れるようになっている.溶接によってはニクロム線の抵抗値は変えた方がいい場合がある(電流値が変わる).


回路図


製作:

 スライダックはケースの関係で横に寝かして置いた.ケースぎりぎりなのでスライダックの一部外装と電源プラグ部分を外して配線した.固定はうまい方法がなく,スライダック上面の目盛り板を止めている3本のネジを利用して無理矢理止めた.スライダックで電圧にリミットをかけるために(コンデンサーの耐圧の関係),スライダック上面に穴を開けてボルトを通して固定し,これがストッパーになるようにした.絶縁のためにこのボルトには熱収縮チューブをはかせた.なおこの位置であるが,整流後のDC電圧は整流前のAC電圧より高くなるため

rear面

使ったコンデンサーの関係でDC60V以下にしないといけない.そのためにはAC40V程度で制限をかける必要があることに注意する(ピーク値がという意味).このスライダックの場合は表示盤の60の6の位置あたりに穴を開けた.穴を空けるときには切り粉が出るため,ケースをトランスから外して作業する.ボルトをここに入れて回転が止まるようにする.ボルトの先端は絶縁すること.
 コンデンサーは頭部にネジがあるので,ケース背面に穴を開けて固定した.電解コンデンサーには極性があるので注意.
 ダイオードブリッジは中央部に穴があるので,やはりケース背面に放熱用両面テープを使って仮止めし,ネジ止めした.放熱の必要性自体はないと思う.ダイオードブリッジのACと書かれた端子をトランスの2次出力につなぐ.+,-と書かれた端子はコンデンサーのそれぞれの極性につなぐ.
 ニクロム線は端子板に取り付け,ケース背面に外に向けて取り付けた(写真参照).これはケースが放熱のためである.溶接時や放電SWを押したときにニクロム線は結構加熱される.線がプラスチックなどに触れていると簡単に溶かしてしまう.今回は端子板に圧着端子で止めた.線が細いと圧着端子をクランプしただけでは接触が不安なので,ハンダを流して固定した.SW端子などはハンダ付けし,バナナプラグの端子,電解コンデンサー端子などは圧着端子で止める.トランス部分の空中配線した部分はチューブ状の圧着端子で止め,熱収縮チューブで被う(内部の写真参照).
 秋月のデジタル電圧計はそのままではDC 200mVなので,100オームと100kオームの抵抗を直列につないで(端子部分で配線),100オーム側の電圧降下を測ることで,max 200Vまで測定できるようにした.また小数点を適切な位置で点灯させるために電圧計内基板で配線をする必要がある.


内部の様子(改造前で少し現状と違う)

 
使用方法:
1)背面のニクロム線部分が接触していないことを確認.溶接電極がショートしていないことを確認.スライダックのつまみを反時計方向いっぱいに回す.電源SW ON.電圧計電源をON.
2)電圧計を見ながらスライダックのつまみをゆっくり時計方向に回して,希望の電圧にする.ストッパーがあるため電圧は最高60Vくらいまでしか上がらない.電圧を一旦下げる場合には電圧が正確に測れないため,電源SWを一度切る.または放電SWを押してコンデンサーを放電させる.
3)溶接をする.遮光メガネを使用すること.
4)溶接が終了したら,スライダックのつまみを反時計方向いっぱいに回す.
5)放電SWを押して,電圧が0になることを確認.電源SW OFF.電圧計電源SWをOFF.
6)電圧が出ない場合はヒューズをチェック.5Aのミニタイプ.
6)溶接や放電SWを押したときにはニクロム線は加熱されるため,直後は触れないこと.また電圧をかけている時に放電SWを長く押さないこと.

不具合・問題等:
1)最初SW ON表示のためのネオンランプをトランスと直列につないでいたが,試してみると出力電圧が非常に小さい.調べるとネオンランプによる電圧降下がかなり大きくてトランスの1次側に電圧がほとんどかかっていないことが判明.そういえば昔ネオンランプによる電圧降下をうまく使っていた電気回路の記事を見たことを思い出した.その後の改造でネオンランプは電源SWで別回路としてAC電源につないだ(回路図のとおり).
2)電圧はコンデンサー両端で測っているため,スライダックのつまみを回して電圧を下げてもコンデンサーに貯まっている電圧が測定されてしまい,電圧計の示す電圧は下がらない.電圧計の分圧抵抗の値を下げてみたが,ゆっくりとして電圧は降下しなかった.電圧を設定する場合に注意が必要である.この対策として放電SWを付けたが,ユーザーにはわかりにくいかも.また使用後放電するのも忘れそうである.
3)白金管の溶接では秋月の電圧計で測って45Vくらい必要なため,2次側で9Aくらい電流が流れる.トランスの仕様は5Aなのでちょっと不安である.1次側は4.5Aになるので問題ない.
4)ニクロム線部分で結構発熱がある.ニクロム線の端子をバナナジャックにした時には,ニクロム線がバナナジャックのプラスチック部分を溶かしてめり込んだ.配線時に注意する必要がある.
 
その他:
(電極部分)
 電極部分の溶接する側はピンバイスを利用するのが定石であろう.片側を電極部分につなぐ.これには電線を剥き,はんだを線にしみこませて固める.これをバイスの片側に入れ,締め付ける.片側には黒鉛棒をくわえさせる.シャーペンの0.5mm芯が使える.経験的には三菱ユニがいいようだ.絶縁のためピンバイスは,テープで巻くか,熱収縮チューブで被う.先端部分とそれ以外を別々に絶縁して,黒鉛棒の出し入れ時にバイス先端部分が回転できるようにする.なお黒鉛棒側は溶接機のマイナス側につなぐ.逆だと溶接がうまくいかない.
溶接される側は小型のバイスを利用する場合が多い.バイスのかみ合わせ部分の上に銅の板1-2mm厚2枚をネジで取り付けて,バイスを締めていくと溶接されるものが銅の板で挟まれるようにする.溶接されるものが傷つかないように接触する銅板の面の角はヤスリで削っておく.銅板にプラス側の出力をつなぐ.


(溶接のこつ)
 金属管を封じるときは端をニッパで少量切り取って,切り口を整えておくと溶接しやすいし,溶かす部分を最小限にできる.

(含水試料封入時の手順)
 (以下手で金属管に直接触れないこと)片方を封じた金属管の重さを秤量する.シリンジに水を必要量とり,片方封じの金属管に入れる.すぐ秤量する(増量分を水の量とする).試料を手早く必要量入れ,開口部をクランプし秤量する.ニッパで先端を切りそろえる.秤量する.溶接する.溶接時はなるべく上部を電極でクランプする.溶接直前に冷却スプレーで金属管を冷やしておく.溶接状態を双眼顕微鏡でチェックする.怪しい部分は溶接し直す.秤量する.110Cのオーブンに入れて数時間保持.秤量し,減量がないことを確認.実験に使用する.