マントル鉱物の局所構造に関するNMR研究

本研究は地球マントルの重要な構成鉱物の局所構造を高度な多核種NMRによって系統的に解明し、地球内部鉱物の物性、並びに地球のダイナミックス・進化をモデリングするために必要な定量的基礎データを提供することを目的としている。

マントルの主要構成鉱物の相転移や全体構造は現在ほとんど判明したが、幾つか重要な課題が残っている。その一つは水の溶解である。水は含水鉱物を形成するだけでなく、SiO2相のようなnominally anhydrous mineralsにも溶解でき、鉱物の物性に大きく影響する。もう一つはカチオン分布の秩序度並びに酸素欠陥の形成である。これらは鉱物物性・熱力学的性質や安定領域に影響を与える重要な因子である。鉱物の構造解析には、X線回折法が主流であるが、水素位置やカチオン秩序に敏感でないという欠点がある。また、水の溶解度・溶解機構に関する研究は、IRやSIMSによるものがほとんどだったが、バンドの帰属や定量化の組成依存性などの疑問がある。一方で、NMRはこれらの問題の定量的解明に最も適する手法である。特に近年の固体NMRに関する理論と技術の目覚ましい進歩のお陰で、多彩な多核種・多次元NMR測定により、鉱物局所構造に関するリッチな情報が抽出できる。

我々がNMRを高圧鉱物へ応用し始めたのは1990年代初頭の薛がStanford大学に博士課程在籍していた時期だった。薛、神崎とStebbins教授の共同研究より、複数の高圧ケイ酸塩鉱物の29Si NMR結果を報告した。その中で特筆すべきなのは29Si NMRによる5配位Siを含む高圧ケイ酸塩相(Ca2Si2O5)の発見であった(Kanzaki et al., 1991)。

我々は1999年に日本地球科学分野で初の固体NMR装置を導入し、高度な固体NMR測定のできるNMRプローブも少しずつ整備してきた。また、当研究センターは超高圧研究の分野では、世界をリードしてきた伝統と実績があり、最先端超高圧実験とNMR測定が同時にできる場としては国際的にも例が少ない。

我々は現在超高圧グループと共同で、主要含水・無水マントル鉱物の局所構造(特にSi-Al-Mg分布の秩序度及び水の溶解機構)について、系統的に調べつつある。最新成果として、Al2O3-SiO2-H2O系の重要な高圧含水鉱物(topaz-OH, phase egg, delta-AlOOH)におけるカチオン分布の部分無秩序及び水素結合に関する発見が挙げられる(Xue et al., 2006)。その他の最新成果については、学会発表や本ページを通して随時発信していきたい。お楽しみに。この課題に参加されたい学生・研究者はご一報下さい。
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ケイ酸塩メルト・ガラスの構造に関するNMR研究

天然マグマは組成が多様で,発生・分化過程における深度(圧力)も地表から下部マントルまで幅広いため、その振る舞いをモデリングするには、ケイ酸塩メルトの広い組成・圧力範囲における物性と構造の情報が必要である。特に水のような揮発性成分は少量でもマグマの物性や相関係に大きく影響するため、マグマ研究で鍵となる存在である。

我々がNMRを高圧ケイ酸塩メルト(急冷ガラス)へ最初に応用したのは1990年代初頭だった。特に29Si NMRにより高圧ケイ酸塩メルトにおける5配位と6配位Siの存在を初めて確認した論文は100以上の引用数に上っている(Xue et al., 1989; 1991)。また、我々が世界で初めて23Naと17O NMRを高圧ケイ酸塩メルトへ応用したが(Xue and Stebbins, 1993; Xue et al., 1994)、このような研究が最近多く見られるようになった。

我々の最近の研究は特に水などの揮発成分に注目している。従来の分光学研究から、水はAlを含まない系ではメルトの重合を切って粘度を下げるSiOH基と分子性H2Oとしてメルト中に溶存すると考えられてきた。しかし、我々はそれとは逆の効果をもたらすfree OH基(Siと結合していないOH基)の存在を含水CaO-MgO-SiO2系で初めて確認し、その組成依存性も明らかにした(Xue and Kanzaki, 2004)。現在我々はより広い組成・圧力範囲において、系統的なアプローチ及び高度なNMR測定法により水の多様な溶解機構の全体像に迫っている。また、多様な構造を支配する原子間結合に関する知見を得るために、非経験的分子軌道法計算も行っている。

水の他に、硫黄を含むケイ酸塩メルトに関しては、辻村(現旭硝子)が博士論文の一部として、異なったfO2条件下で合成した含硫黄Na2O-SiO2急冷ガラスをNMRやラマン分光法により総合的に検証し、多様な硫黄の溶解機構に関する知見を得た(Tsujimura et al., 2004)。また、硫黄と水の両方を含む系における含水種の分布に関する興味深い結果も得た。

我々が2003年Goldschmidt国際会議(倉敷)でメルト・フルイド関係のセッションを企画し、Geochimica et Cosmochimica Acta特集号(vol. 68)の出版に至った (Xue et al., 2004)。2006年のIMA(神戸)でも同様のセッションを企画している。詳しくは
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水ー鉱物界面構造に関するNMR研究

地表及び地殻における水溶液による鉱物の溶解は元素の地球化学的循環・風化・土壌の形成・放射性物質の地層貯存などに関わる重要な過程である。鉱物の溶解速度測定やXPSなどの分光法測定が今まで多数なされたにもかかわらず,その溶解機構について不明な点が多い。それに関する洞察を得るために、我々は多核種NMRを用いて重要な鉱物の表面水和層の構造の研究をOxford大のDon Fraser教授とIndiana大のZhu Chen教授と共同で行っている。我々のこの分野における研究の歴史はまだ浅いが、水とケイ酸塩の原子レベルにおける相互作用という視点から見ては、我々が本来行ってきた高圧鉱物、メルトの研究と共通点が多い。このテーマに関する学生・日本国内の共同研究者は募集中。

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量子力学計算によるNMRパラメータの予測

当研究センターにはいくつかの計算サーバーがあり,非経験的分子軌道法(Gaussian03、GAMESS)や第一原理バンド計算法(WIEN2K) などが使える。我々は非経験的分子軌道法を用いてケイ酸塩のNMRのパラメータの計算を行ってきた。その結果,計算したNMRパラメータは実験値と良く一致することが分かり、分子軌道法計算と実験NMRの総合的研究の実用性を確認した(Xue and Kanzaki, 2000)。具体的な計算例として,29Si及び17O NMR パラメータのSi-O-Si角への依存性(Xue and Kanzaki, 1998),アルミノケイ酸塩ガラスに存在しうるtricluster (OAl3, OSiAl2など)を初めとする局所構造の17O NMR特徴(Xue and Kanzaki, 1999),及び含水ケイ酸塩ガラス中のOH基の17O及び1H NMRパラメータの水素結合(O-H...O)距離及びカチオンへの依存性(Xue and Kanzaki, 2001, 2004)などが挙げられる。また、我々は第一原理計算WIENにより結晶の電場勾配を正確に計算してきた。これは核四極子モーメントを持つ核のサイトを同定するために役に立つ。これらの量子力学に則った計算では大きな系を調べることは難しい。そのため、より大きな系が扱える古典的分子動力学法を使ってメルトや結晶の構造を調べている。最近は特に実験結果の解釈のために上記のような計算が必要不可欠となりつつあり,それらがどちらも出来ることが我々の研究室の1つの特徴である。
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